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京都地方裁判所 平成3年(タ)60号 判決

主文

一  原告と被告とを離婚する。

二  原告は、被告に対し、財産分与として金一、五〇〇万円を支払え。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

理由

第一  請求(申立)

一  原告

主文第一項と同旨。

二  被告(仮定的な財産分与の申立)

1  主位的申立(現物による財産分与)

原告は、被告に対し、別紙物件目録二(イ)(ロ)記載の各不動産(以下、乙原物件という)を分与し、右不動産につき財産分与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

2  予備的申立(金銭による財産分与)

原告は、被告に対し、金一億円及びこれに対する本件口頭弁論終結日の翌日である平成五年一〇月三〇日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  請求の類型(訴訟物)

本件は、原告が、婚姻を継続し難い重大な事由(民法七七〇条一項五号)があると主張して被告との離婚を求め、被告が予備的に財産分与を申立てた離婚訴訟である。

二  前提事実

1  原告(大正一〇年一一月六日生)は、前妻竹子と昭和五七年三月二七日、死別し、その間には、長男一郎(昭和二三年五月一七日生)がいる。

2  被告(昭和一〇年一二月二四日生)は、前夫と昭和四九年一二月九日、協議離婚し、その間に、長男一夫(昭和三四年一一月二日生)、長女春子(昭和三七年七月一日生)がいる。

3  原告は、被告と昭和五九年一月から同居して事実上の婚姻関係に入り、昭和六〇年三月二二日、婚姻の届出をし、同日、被告は、一郎と養子縁組の届出をした。

4  原告は、平成二年九月、被告を相手方として京都家庭裁判所へ夫婦関係調整の調停の申立をしたが(同裁判所平成二年(家イ)第一二四五号)、平成三年二月一八日に不調に終わつた。

三  争点

1  原、被告間に離婚原因として婚姻を継続し難い重大な事由(民法七七〇条一項五号)があるか否か。

2  仮に、1が認められた場合、原告の被告に対する財産分与の方法及び金銭分与とした場合の金額。

第三  争点に対する判断

一  争点1(離婚原因)について

1  原告の主張

(一) 被告は、次のとおり、婚姻以来、些細な事情で原告を侮り、罵倒する等して原告に精神的に耐えがたい思いをさせてきた。

(1) 昭和六一年一二月六日、被告は、原告が会社の用件を被告に確認した際、原告に対し、「あなたは、私と結婚してから、指輪の一つもくれたことがない。人間の屑や。毒を盛つて出刃を突きつけてやる」等と言つた。

(2) 昭和六三年一〇月九日、被告は、原告が自宅階段横に置かれた包装した扇風機を何処にしまうのかと尋ねた際、原告に対し、「ごじやごじや言わんといてんか」「松夫(原告の養父)さんがあんたを恨んでおつてや。あんたは松夫さんや梅子(原告の先妻の通称)さんを一人、二人と殺してきた」等と罵倒した。

(3) 同月二二日、被告は、原告が会社に出勤後、玄関口に塩を撒くなどの嫌がらせをした。

(4) 同年一一月一日、被告は、原告が被告に対し、原告の長男一郎の生命保険証書の所在を尋ねた際、「甲野へ帰らんといてんか」等と言つた。

(二) 被告は、原告の経営する株式会社乙山(以下、乙山という)の経理を担当していたが、平成三年一一月までに総額約八〇〇万円の金員を不正に取得し、原告に損害を与えた。

(三) 原、被告ともに高齢であり、婚姻期間も長くなく、両者の間に実子はいない。

以上の事実を総合すれば、原、被告間には、婚姻を継続し難い重大な事由が存在する。

2  被告の主張

(一) 原告主張の婚姻を継続し難い重大な事由はすべて否認するとともに、仮に右のような重大な事由が存在するとしても、それは次のとおり、すべて原告の責に帰すべき事由によるものであるから、原告からの離婚請求は許されないというべきである。

(二)(1) 被告は、長年経営してきたエステティックサロン「丙川」を辞め原告と婚姻生活に入つた。

(2) 被告は、原告の事業の発展に尽力し、その結果、原告一人の力では到底不可能な事業の発展をみた。

(3) 原告の事業も軌道に乗り、被告の事業への手助けが不要になつた頃、原告が、春子と精神障害のある一郎とを婚姻させようとしたが、被告及び春子がこれを断つたため、原告は被告を自宅から追い出しにかかつた。

(4) その結果、被告は、病院で精神科の治療を受けざるをえなくなつた。

(5) 被告が春子の引つ越しを手伝うため、自宅を出た際、原告は、家の鍵をすべて取り替えるなどとして被告を追い出した。

3  検討

(一) 事実の認定

《証拠略》及び前示第二の二の前提事実によれば、次の事実が認められる。

(1) 被告は、昭和四八年一一月ころから「丙川」というエステティックサロンを経営していたが、原告との結婚の際、右「丙川」を辞めた。

原告は、昭和五八年の秋頃、大阪の結婚相談所の紹介で被告と知り合つた。

原告は、被告と婚姻するにあたつて、次の三つの条件を提示し、いずれも原、被告間で了承された。

〈1〉 被告が甲野家に入居後、一年間は戸籍を入れないが、原告は被告に対し、右一年間は生活費と別に保証金として毎月三〇万円を被告に渡す。

〈2〉 原、被告間の婚姻につき、一郎の同意を得る。

〈3〉 一郎の同意が得られても、被告が同意しなければ原、被告間の婚姻の話を白紙に戻す。

被告は、昭和五九年一月から原告と同居して事実上の婚姻関係に入つた。

原告は、同居するようになつてから、被告に毎月生活費として二〇万円その他に二〇万円の合計四〇万円の金員を渡していた。別紙物件目録一(二)記載の建物(以下、乙山ビルという)が完成してからは、被告に給料の一一万円に九万円を足した二〇万円の他、生活費として二〇万円を渡していた。

(2) 原告は、昭和六〇年三月二二日、被告との婚姻の届出をし、同日、被告は、一郎に甲野家を継がせたいという原告の要望を入れて、一郎との養子縁組の届出をした。

被告が甲野家に入居後、娘の春子が昭和五八年一一月に離婚し、大阪市城東区今福のマンションに居住するようになつた。その後、昭和六〇年五月頃、京都市左京区下鴨北園町にある丁原ハイツに引つ越してきた。

そして、同女は、その頃からしばしば甲野家に出入りするようになつた。

一郎は、登校拒否による後遺症として強迫神経症にかかつていたが、春子が自宅に泊まりに来たとき、一郎が春子の寝室に入り込むことがあつた。

それ以来、春子は原告の自宅への宿泊を控えるようになつた。

その頃、原告は、被告に対し、一郎と春子を結婚をさせてはどうかとの話を持ち出したが、被告及び春子はこれを断つた。

原告は、一郎の結婚相手を探しているが、現在に至つても、まだ見つかつていない。

(3) 原告は、昭和六一年一二月六日頃、原告の経営する会社の事務連絡や指輪のことで被告と口論となり、その際、被告に暴力を振るつた。その後も、原、被告間で口論が絶えず、被告が玄関に塩を撒いたことで原告が怒ることもあつた。又、被告は、原告経営のマンション業等の事業会社甲原の経理担当者であるにもかかわらず、不在がちで、そのことで被告と口論になることも多かつた。

昭和六二年七月頃、原告が一郎の給料につき二五万円の額を指示してあつたのに被告が一五万円に減額する措置をとつたとして原、被告間で口論となつた。

原告は、平成元年一月二二日、被告の姉の戊田秋子に対して被告の日常生活の態度の不満を手紙で訴えた。

(4) 平成二年三月、乙山ビルの事務所にアルバイトとして甲田松子が雇われ、それ以降、被告と甲田が乙山ビルの事務所の経理を担当することとなつた。

原、被告間で、春子の住んでいた丁原ハイツの賃料及び一郎の給料のことに関し、被告が原告に無断で処理しているとして口論になつた。甲原の平成二年五月一日から平成三年四月三〇日までの事業年度における金七七九万七、六五二円とその後平成三年一一月までに金四三万四、九八八円の合計金八二三万二、六四〇円が、被告に対する仮払金として処理されている(なお、被告も、右の点については、会社の金を生活費の不足、春子の滞米中の費用に充当したことを認めている)。

その後、丁川夏子が乙山に雇われ、右丁川が被告に代わつて甲原の経理を担当することとなつた。

(5) 原告は、平成二年八月二七日、被告の実兄である乙野竹夫弁護士の大阪丙山共同法律事務所に赴き、被告との離婚につき相談した。

原告は、平成二年九月、京都家庭裁判所に夫婦関係調整の調停の申立をした(同裁判所平成二年(家イ)第一二四五号)。

被告は、平成二年一二月二九日、書き置きを残して自宅を出たが、これに対し、原告は、春子の丁原ハイツに被告の自宅への立ち入りを拒否する内容の通告書を送つた。

原、被告間の右調停は、平成三年二月一八日、不調に終わつた。

(6) 被告は、平成二年一二月二九日から犬をエミと名付け飼つていた。しかし、この犬が平成三年四月五日、死んだことで被告は精神的に動揺するようになつた。

そのため、被告は、平成三年六月頃から、戊原病院精神科で治療を受けるようになつた。

被告は、平成三年七月一七日の夜、原告宅の壁、鏡などに「自殺したエミを返せ、真実を云う、出ていけ! 出ていけ! 呪つてやる」等と口紅様のもので落書きし、庭の敷石を屋内の座敷、本社事務所等に投げ込んだりもした。

その後、平成三年八月五日、原告宅のお手伝いをしていた戊山が辞めることになつた。

(7) 平成三年七月二八日、春子が京都の丁原ハイツから大阪市城東区今福のマンションに引つ越すので、被告がその手伝いをするため、自宅を出ている間に、原告は、自宅の勝手口に「花子の家内への出入りをかたく拒否する 甲野太郎」という貼紙をして、鍵を施錠し被告を自宅に入れないようにした。

(8) 被告は、平成三年八月末頃から、自宅を出て大阪市城東区今福の実弟の所に行き、原告とは現在、別居中である。

(二) 検討

(1) 右の各事実に、被告自身、現在においては原告に対し愛情がない旨を供述していることを併わせ考えれば、原、被告間の婚姻生活が現在破綻し回復が期待出来ず、婚姻を継続し難い重大な事由があると認められる。そして、右破綻の原因は、次のとおりであると推認できる。

(2) 原告は、被告との日常の喧嘩を細かくメモに残したり、被告に対し、金銭のことで細かく口を挟んだりした。そして、原告は、一郎が神経症であり、年齢も四五歳であつたことから、一郎に甲野家を継がせることを第一に考え、そのため、一郎とのことを被告との結婚の第一の条件とし、被告に一郎との養子縁組をさせた。しかし、被告及び春子が一郎との結婚の話を断つたこともあつて、原告との仲が円滑を欠くようになつた。そして、平成三年七月二八日、原告は、被告の自宅への立ち入りを拒否する等の強硬な手段をとつた。

(3) 他方、被告は、原告とたびたび口論をし、その際、原告を侮蔑するような言動もあつた。又、被告は、甲原の経理担当者であつたにもかかわらず、同社の代表取締役である原告の指示に従わなかつたり、原告と八〇〇万円近い金員につき経理上のトラブルを起こした。

そして、平成三年六月頃から、戊原病院精神科で治療を受けるようになり、同年七月一七日には、飼つていた犬の死がきつかけで、原告宅中に口紅様のもので落書きをする等異常な行動をとつた。

(4) このように、原、被告間の婚姻生活が破綻した原因は、双方に認められ、いずれに主たる原因があるとも認められない。

しかし、前示のとおり、原、被告間の婚姻生活が破綻しその回復が期待できないことは明らかであるから、原告の離婚請求には理由がある。

二  争点2(財産分与の方法及び金銭分与とした場合の金額)について

1  被告の主張

(一) 主位的な財産分与の申立(現物分与の申立)

原、被告間には、乙原物件を財産分与する旨の合意が成立していた。

よつて、被告は、原告に対し、右合意に基づき、主位的に乙原物件の現物分与を求める。

(二) 予備的な財産分与の申立(金銭分与の申立)

(1) 被告は、宅地建物取引主任者の資格を有しているが、甲原の経理を担当する等によつて原告の事業の経営に貢献した。例えば、ビル建築に当たつての近隣問題の解決、請負業者、設計事務所等とのくい違いによるもめ事の処理、入居者の募集、窓口業務を担当した不動産会社甲川の独占を排除し、竣工式、パーティー等の段取りをする等の問題の処理に当たつた。更に、被告が役員報酬なしで、経理一切を担当し、乙山ビルの立体駐車場オープン時には、約四か月ほどガレージの一時預かりの現場業務も担当した。

(2) 右の被告の原告に対する協力の結果、別紙物件目録一ないし五記載の土地、建物が財産として蓄積された。被告は、原告と結婚するため、それまで経営していたエステティックサロン「丙川」の経営を他に譲り、宅地建物取引主任の資格を生かし、乙山ビル、乙原ビル(同目録二(ロ)記載の建物)、丙田物件(同目録三記載の各不動産)に関する建築、テナント募集、経理等に尽力した。更に、一郎物件(同目録五記載の各不動産)の取得には、資金借入のための保証人になり、甲野家の将来の基盤を作つてきた。右のうち、乙山物件、乙原物件、丙田物件はいずれも収益が上がり、平成三年四月三〇日の決算では、年間一億二、七九五万三、八五九円の収入を計上できることとなつた。

(3) 前記財産の平成四年度の固定資産評価額の合計は、金六億〇、五九六万六、〇八九円であり、不動産の時価相当額は、少なくとも右固定資産評価額の三倍以上であることは公知の事実であるから、右評価額の三倍は、一八億一、七九〇万円である。したがつて、被告は、原告に対し、右財産形成に対する被告の貢献度に応じて右金額の五・五パーセントに相当する金一億円を分与するよう求める。

2  原告の主張

被告の財産分与の申立を争う。

3  検討

(一) 被告は、原告の離婚請求が認容された場合に仮定的に財産分与を申立てている。人事訴訟手続法一五条の趣旨に照らすと、自ら離婚請求をしない当事者も予備的に財産分与の申立をし得ると考える。

(二) そこで、被告の主位的申立につき検討する。

被告は、原、被告間には、乙原物件を財産分与する旨の合意が成立していた旨を主張し、これに副う《証拠略》がある。

しかし、《証拠略》によれば、次の事実が認められる。被告は、原告と口論する際、乙原物件をくれるように要求したことがあるが、原告は、被告に甲野家の人間になつて一生懸命やつてもらつたら、乙原物件のことを遺言書作成の際に考慮する旨を述べていたにとどまる。又、原告は、原告代理人に本件の事件を依頼した後、遺言書を作成したが、それには乙原物件のことは記載されていない。

そうすると、被告主張に副う前掲証拠によつて、右合意の存在を認めることはできず、他にこれを認めるに足る的確な証拠がない。

したがつて、被告の右主張は失当である。

(三) 次に、被告の予備的申立(金銭分与)につき検討する。

(1) 《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

イ 原告は、昭和三二年一一月二七日、別紙物件目録四(イ)記載の土地を取得し、昭和四〇年八月三一日、同土地上に同目録四(ロ)記載の家屋を新築した(以下、自宅物件という)。

その後、原告は、昭和五九年一〇月一日、右建物を増築し、昭和六一年六月一六日、右建物につき所有権保存登記をした。

ロ 原告と株式会社甲川は、昭和五八年六月頃、次のとおり、乙山ビルとコーポ甲原(別紙物件目録二(ロ)記載の建物)の建築計画を立てた。原告の所有する別紙物件目録一(イ)記載の土地(昭和三一年五月一一日、売買契約で取得)同(ロ)記載の土地(昭和五八年九月二四日合併により取得)、同(ハ)記載の土地(昭和五八年九月二四日、合併による取得)のうち、右(ハ)の土地を甲原に売却する(実際に売却したのは、昭和五九年八月二五日である)。

甲原は、第一勧業銀行西陣支店から金五億円を一五年間のローンで借り受け、原告及び甲原所有の別紙物件目録一(イ)ないし(ハ)記載の各土地に根抵当権を各設定し、その余の不足分はビル入居者の保証金で賄うことにして、前記売却代金とともにビル建築資金とする。

その結果、原告所有の別紙物件目録二(イ)記載の土地(昭和四七年七月八日、代物弁済契約で取得)に昭和五九年一二月二一日、コーポ甲原がそして、昭和六〇年二月二八日、乙山ビルがぞれぞれ完成した。

ハ 中京区役所が、昭和六一年五月頃、乙山ビル及びコーポ甲原の固定資産税を評価したところ、それは原告の予想以上に高額であつた。

右両ビルの賃料を入居率九〇パーセントで試算すると、銀行返済ローン借受金利、維持管理費用が社員の給料をゼロとしても支払えないことが判明した。

そこで、原告は、その所有にかかる別紙物件目録三(イ)ないし(ニ)の土地((イ)、(ロ)の土地は昭和四三年一〇月一二日に売買で取得、(ハ)、(ニ)の土地は昭和四八年七月二〇日に取得)を甲原に賃貸し、この土地上に店舗を建設するための建設協力金を甲原が株式会社丁野電機から預かつた。

甲原は、昭和六二年四月一五日、同土地上に店舗を完成させ、その保存登記を昭和六二年五月八日、甲原名義とした上で同店舗を右丁野電機に賃貸し、その賃料の収入を前記支払いに充てることとした。

ニ 原告は、別紙物件目録五(イ)、(ロ)記載の各土地及び右ハ記載の各土地上の新築された同目録(ハ)記載の家屋を株式会社甲山ハウジングから一郎のために購入することにし、平成元年二月二八日、第一勧業銀行西陣支店から融資を受けて、右各土地及び家屋を購入し、同日、同支店のために同目録五(イ)、(ロ)、(ハ)記載の各土地建物及び同目録四(イ)、(ロ)記載の土地建物に極度額金一億二、〇〇〇万円の根抵当権を設定した。

(2) 他方、《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

イ 被告が原告宅に入居した頃は、乙山ビルの着工の時点であり、被告は以後甲原の経理を担当することになつた。

被告は、昭和六〇年一月二三日、コーポ甲原の竣工式に、同年三月八日、乙山ビルの竣工式に、昭和六二年四月一八日、丙田物件の竣工式にそれぞれ経理担当者として出席した。

乙山ビルが完成後、被告は、原告から給料として一一万円を受け取るようになり、さらに、右一一万円に九万円を足した二〇万円に加えて生活費として二〇万円を受け取つていた。

又、前記一郎物件の取得の際の原告に対する融資については、被告も保証人となつていた(但し、現在では、保証契約は解除されており、一郎のみが保証人である)。

ロ 甲原は、昭和五七年五月一日から昭和五八年四月三〇日までの事業年度(昭和五七年度という、以下同じ)の決算では、金二九万一、五一六円、昭和五八年度の決算では、金九八三万八、四五六円の赤字を抱える会社であつた。

しかし、被告が原告の事業を手伝うようになつた昭和六〇年頃になると、甲原は、昭和六〇年度の決算では、家賃礼金等収入が金一、六四九万五、七二九円を計上できるようになつた。又、平成三年度の決算では、年間売上金一億二、七九五万三、八五九円を計上、一般管理費金八、五四六万一、六七六円を控除しても、なお営業利益が金四二、四九二、一八三円も計上できるようになり、当期末処分利益金三四四万九、九三三円を計上できるまでになつた。

ハ 前記財産の平成四年度の固定資産評価額は次のとおりである。

乙山物件

金三億四、〇四二万三、六〇〇円。

乙原物件

金九、七六七万一、八〇〇円。

丙田物件

金一億一、七二二万七、三八九円。

自宅物件

金三、一八六万九、五〇〇円。

一郎物件

金一、八七七万三、八〇〇円。

合計金六億〇、五九六万六、〇八九円。

ニ 原告の別紙物件目録記載の各不動産に対する抵当権設定の状況は、別紙記載のとおりである。

(3) 前示(二)(1)の各事実によれば、別紙物件目録一ないし五記載の土地、建物は、いずれも原告の特有財産ないし甲原所有の財産と認められ、清算の対象となる夫婦の実質的な共有財産とはいえない。右のような特有財産や第三者に帰属する財産は、夫婦が協力して形成した財産の潜在的持分を清算するという財産分与制度の趣旨に照らし、原則として財産分与の対象とはならないものと解するのが相当である。

しかし、前示(二)(2)の各事実によれば、右各財産は被告の協力によつて形成されたものとはいえないとしても、その財産の価値の減少を防止し、その維持に一定限度、寄与したことが認められる。そうすると、右(2)の各事実及びその他の一切の事情を総合すれば、原告は、被告に対し、金一、五〇〇万円を分与するのが相当というべきである。

又、被告は、本件口頭弁論終結時の翌日(平成五年一〇月三〇日)から右完済までの財産分与請求権の遅延損害金を請求している。しかし、右財産分与請求権に対する遅延損害金の請求権は離婚判決の確定日の翌日から請求し得る財産法上の損害賠償請求権である。

したがつて、原告の右遅延損害金の請求は、反訴などの訴え提起によるべきものであつて、単に離婚請求の相手方である被告の予備的財産分与の申立によつて、これを請求することはできない。

第四  結論

以上のとおり、原告の離婚請求は理由があり、被告の財産分与の申立は主文の限度で理由がある。

(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 中村隆次 裁判官 河村 浩)

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